2026
Concept
現代美術作家のノサチカミサキと実施した3日間のインスタレーション。14年続いたギャラリーに残された「モノ」たちの音を採集して構成した「独白」、来場者の声を収集して作る「痕跡」、それらを譜面に見立てて即興で演奏する「演奏会」という連続した3つのサウンドアートを作成した。
- モノたちの独白 - Monologue of Objects
ギャラリーに残された25個のモノたちが、自らの言葉で記憶を語りだす。
- モノたちの痕跡 - Traces of Objects
会場への来場者は、モノの代弁者となり、痕跡として声と譜面を残す。
- モノたちの演奏会 - Concert of Objects 「独白」と「痕跡」をもとにした30分間の即興演奏パフォーマンス。 (音源は当日ご来場いただいた方のみの限定公開となります)
Behind the scenes
本プロジェクトのきっかけは、現代美術作家のノサチカミサキより、「馴染みのアートギャラリーの運営が変更されることになったそうなので、その前に何か作品を一緒に作れないか」と相談を受けたことだった。よくよく聞けばそのギャラリーは約14年も続いていたそうで、長い年月で蓄積した様々な什器や機材、資材を全て処分しなければならない状況だという。
ギャラリーのオーナーを交えて3人でいろいろな話をしているうちに、単純にモノを処分するのではなく、蓄積したモノたちが主役になるような作品を作ろうという話になった。また、これまでのギャラリーの歴史を静かに提示するとともに、今後ギャラリーが形を変えて次の時代に進んでいく一つの契機になるような時間にしよう、という構想でまとまった。
そこで、ノサチカミサキが、大量のモノたちをギャラリー内にアート作品のように展示して、自由気ままに作品名とキャプションをつけていくという、モノを主役に見立てたインスタレーションを実施することになった。
私は「モノたちが自らの声で記憶を語りだす」というコンセプトで、サウンドアートを作成することにした。具体的にはそれぞれのモノから生まれる音を録音し、その音だけを使って30秒程度の音楽作品を制作した。録音において最も意識したのは、モノを不自然に叩きつけたり、蹴ったりして無理やり音を出すのではなく、できるだけそのモノが本来の利用用途の中で自然に出される音を使うことだった。いろいろなモノをあれこれ触りながら音を録っていくうちに、だんだんとモノと対話しているような気分になっていくのが、何とも不思議な感覚であった。 また、モノたちの録音を重ねていくうちに、来場してくれたお客さんにも参加してもらおうという話が上がった。これは、ギャラリーのオーナーが「運営が変わったら、これまでの現代アートファンだけではない新しい層の方々にも足を運んでもらえるような、開かれた場所になると嬉しい」とお話しされていたことがきっかけだった。このインスタレーションをきっかけにして、初めてギャラリーに足を運んだ来場者が、何らかの形で参加してもらえる作品にできれば、それは一つの新しい痕跡になり、開かれた場所へ変わる契機として刻まれるのではと感じたためだ。一方で、音で参加するのは少しハードルも高く、また人まで声を出すのは恥ずかしい、という問題もある。そこで、インスタレーションから好きな「モノ」を選んでもらい、モノになりきって決まったフォーマットで声を録音してもらうことにした。さらに、その音をイメージしながら譜面を書いてもらうことにした。以下が、その案内文である。
最終日は採集したモノの独白と、録音に協力してもらった人の声を組み合わせて、出来上がった譜面に沿った即興演奏を行うことにした。モノたちに囲まれながら、モノたちが織りなす音の上で、ハンドパンや自分の声を使って演奏していくうちに、その場に展示されているモノたちと一緒に合奏しているような感覚であった。いつの間にかモノたちに対して、まるでバンドメンバーかのような愛着が生まれてきていた。「特別なお片付け」というのは何とも言い得て妙なプロジェクトだったと思う。
Creative Process
採集と加工 (Field Recording & Processing)
- 会場内のさまざまなモノから25点のモノを選定
- ハンディレコーダーを使用しながら録音を行った後、加工を実施
- 完成した音源をSoundCloudにアップロードし、キャプションにQRコードを添付
- 会場では、モノ自身の「独白」を一人でも聴けるブースを構築
参加の設計 (Interactive Design)
- 来場者に好きなモノを選んでもらい、「私は○○(選んだモノ)」という声を録音
- 録音した声を即興演奏に利用して良いかどうかを、その場で本人に確認
- その声をイメージした線を、時間軸(12:00-18:00)で区切られた6小節の譜面に自由記載
演奏の構築 (Performance Structure)
- モノの音だけで構成した30分のサウンドスケープを事前に準備
- パフォーマンス開始と同時に譜面を1小節ずつスクリーンに投影
- 5分ごとに小節が変わり、合計6小節の譜面を演奏
- 録音した声に加えて、ハンドパンとルーパー、声を組み合わせて即興演奏を実施