2026
Concept
バイオ炭の生成から土壌への還元に至るプロセスを、人間の生のサイクルに重ね合わせたサウンドインスタレーション。絶え間なく炭を穿つ水滴の音と、各地で採集したフィールドレコーディングが重なり合い、変容と継承の時間を立ち上げる。有機物が多孔質の炭となり、水と記憶を吸収しながら次の命へとつながっていく過程を描いている作品。
This sound installation juxtaposes the process of biochar, from its production to its reintegration into the soil, with the cycle of human life. The persistent sound of water droplets hollowing into charcoal is interwoven with field recordings gathered from various locations, giving rise to a temporality of transformation and inheritance. It traces the passage by which organic matter is transformed into porous charcoal, absorbing water and memory as it is passed on toward new life.
Creative Process
本作品は、2026年4月にEarth+Galleryの14周年を記念して開催された「EARTH+GALLERY14周年記念展「Various Black – COEXIST」への出展作品である。有機廃棄物を炭にした素材を共通のテーマとして、14名の作家が作品を制作した展示である。
初めは、漠然と「炭」という素材で作品をどう作るかを考えていたが、このギャラリーで扱っている炭は、「バイオ炭」という種類の炭であることを知った。有機廃棄物を炭化させたもので、これを土に混ぜると、土壌に栄養をとどめて保つことができるそうだ。炭はもともと「多孔質」、言い換えると無数の穴をもつ素材だ。バイオ炭は、炭が持つその穴を生かして、水や空気が通り、バクテリアが住むことで、土を豊かに保つというのが最大の特徴だという。
そこで、バイオ炭にまずは水を垂らして、その音を録ってみようと思いやってみたところこれが実に良い音がする。
そこで、このバイオ炭が担う役割の一連を、視覚的に簡単な装置にできないかと思い立った。すなわち、水がバイオ炭を通り、土へと染み込んでいき、土の状態を維持する。やがて土から育った植物が生まれ、またそこへ雨が降り、バイオ炭を通って、土へと循環していく。このプロセスを擬似的な装置として作成し、その音をリアルタイムで録音するインスタレーションを思い立った。
発想自体はシンプルだったが、作ってみるとこの装置自体の作成が、非常に難しかった。特に、バイオ炭を経て、バイオ炭のチップにたまった水を、自動的にもう一度循環させるためには、組み上げ用のポンプが必要だったがそのポンプのモーター音が、思いの外大きく、また人工的な音だった。
ここでは、現代作家のノサチカミサキに大いなる協力を経て、水槽用に使う極小な音のポンプ、さらには透明なアクリル板で仕切りを作り、防音を図った。また上部にも黒い布をかけたことで、外からの音もだいぶ遮蔽することができた。このおかげで非常にクリアに水がバイオ炭に当たる音だけが聞こえるようになった。なお、マイクは、RODE の NT5-Singleを使用した。
装置はどうにか完成したものの、作っている中でこの装置にもう少し人間的な要素を含めたいと感じた。つまり、有機物が生命を終え、その体を焼かれ、土へと帰り、次の生命へとつながるという大きな循環は、人間の繰り返される一生のサイクルと極めて近い。
そのため、これまで集めたフィールドレコーディングを編集して、大きく4つのパートからなる7分4秒のサウンドスケープを作成した。
- 生命
- 土へ還る
- 土の中で多孔質を流れる水
- 新しい生命の誕生
鑑賞者は、ヘッドホンから、このサウンドスケープと装置でバイオ炭に滴る水の音が重ねて聴くことができる。バイオ炭によって続いていく循環と、繰り返される一生のサイクル。そんな重なりを表したく、この作品を「Porous Memories(多孔質の記憶)」と名づけた。